その年は長い梅雨だった。
畑には無数に走るモグラのトンネルがそこかしこに見られた。
トンカラのあるじは、一抹の不安をおぼえた。
『もぐらの痕がある場所は、よくない場所だ』
うろ覚えだったが、なにかでそんな記事を読んだことを思い出した。
やがて、深夜、雨の音にまじって、かすかな音が聞こえるようになった。
外壁の向こうから、カリカリカリカリカリ。
そのうち、二階からも物音が聞こえるようになった。
カタカタカタカタ。
確信した。
や・やつらだ!!
モグラの穴を伝ってきてしまうらしい。
時間さえあれば、懸命にネズミ対策を調べた。
1ネズミの巣材になりそうなものは置かない
2食品は全て密閉容器か冷蔵庫に保存
3侵入口を防御する
4ミントの香りが嫌いなので撒いておく、ネズミが嫌がる臭いの忌避剤を仕掛ける
5猫・フクロウ・タカなどの猛禽類・蛇・フェレットなどの天敵を飼う
6ネズミ対策の超音波を流す
7毒エサやネズミとりを仕掛ける
8業者に依頼する
etc。。。
1ネズミの巣材になりそうなものは置かない
イヤ、糸とかわたとか、たくさんあるし!
てゆうか、古い家そのものが全部巣材にされそうだし!
2食品は全て密閉容器か冷蔵庫に保存
台所は閉て切ることができるので、そこを防御できれば台所の被害を防ぐことはできる!
常温保管していたジャガイモや玉ねぎ、その他の食材は速やかに大きな密閉容器を購入し、そこににしまった。
連日深夜までかかっての作業だった。
それはとりもなおさず、整理整頓が苦手な自分と向き合う作業だった。
3侵入口を防御する
侵入口の防御、その課題には、無力感しかなかった。
大工事が必要だし。。。
どうやって防御するの、スキマ風の吹きすさぶ、この家で。。。
そんな予算、ないよ。。。?
4ミントの香りが嫌いなので撒いておく、ネズミが嫌がる臭いの忌避剤を仕掛ける
ミントオイルはボトルで買い、絶え間なく散布した。
ネズミの忌避剤も仕掛けておいた。
初めのうちは、効果があるように思えた。
しかし、そのうち私の努力をあざ笑うかのように、そこかしこにラットサインが再び現れ始めた。
忌避剤の上に足跡を見つけた時には、わざとやっているとしか思えなかった。
私は半狂乱になってアルコールで除菌をし、ミントを散布した。
でも、自然の猛威の前には、人間て無力だな、と力なく笑うしかなかった。
6ネズミ対策の超音波を流す
超音波、それからネズミが嫌がるという猛禽類の声を流した。
チー・チチチ・チー・・・
キーーーーーッ、キッキッキ・・・カアカア(←野外録音の鷹の声なので時々カラスの声が入る)
これ、私が病気になりそう。心が折れそう。
心が折れそうな私の傍を、またもやあざ笑うかのように小さな影が走り去るのであった。
毒エサの散布は、毒という恐ろしさにおののき、
また壁の中で死なれてしまうと、大変なことになるという口コミを見かけたので、思い切ることができなかった。
業者への依頼も、スキマの防御工事も含めてということを考えると、今の私には難しかった。
そうこうするうちに、被害が増してゆくようだった。
毎晩遅くまでかかって食品をコンプリートに仕舞い込む私をよそ目に、買い物好きな夫が大量の食品を買い込んでおいてゆく。
仕舞い込んでは、買いこまれ、それらをさらに仕舞い込む容器を購入し、
仕舞い込んでは、さらにまた買いこまれておいて行かれる。
なんでそんなに柿の種とピーナッツを大量買いするんだ。お徳用パックを2パックも3パックも。
そのうち畑の実りが持ち込まれるようになった。
ジャガイモ、トマト、ナス、マンガンジトウガラシ。。。もう、もう、入りきらない。。。
やがて秋になればコンテナいっぱいのさつまいもと、米がもたらされるだろう。
どう、どうしたら。。。
喜ぶべき大地の実りに、私の心は悲鳴をあげた。
天敵、飼うか。。。
決断の時を迎えたようだった。