薄手火蛾・愛と死

うちの生きものがかり(夫)が床の間にいけたコナラ、

何か気配がすると思ったら

ウスタビガの幼虫がついていました。

冬の鹿猟の時に東さんが繭を3つも採ってきてくれたので、

繭は見知っていましたが、本人を見るのは初めて。

 

ウスタビガ。漢字で書くと『薄手火蛾』もしくは『薄足袋蛾』だそう。

枝からぶら下がる、開閉自在の面白い繭を作ります。

『手火』は提灯のことで、ぶら下がったところが提灯ぽいところからつけられたようです。

 

 

内職に山繭をつむいでいるクマの背後にあるのがウスタビガ。

パカパカと開閉をする、面白い繭です。

森に返そうかな、と思いましたが、せっかくなので繭を作って蛾になるところまでお世話したくなったのでした。

東さんや並木先生が野蚕の飼い方について教えてくれました。

 

何か気に入らないと脱走する、

気に入らないと下に逃げ出すので、よく水に溺れることがあるそうです。

 

けっこう大きいから、すぐ繭になってくれるかな、と思っていたら、

虫の研究をしていたK子ちゃんが、やってきて

『いやー。。。あと、二週間くらいかな』

二週間、、、ながいな。

 

K子ちゃんはウスタビガをしげしげと眺めて、あれっと何かに気づいたようでした。

『ハチに・・・』

と言ってルーペを取り出して 観察し、

『いやいや、気のせいでした』

 

ハチに・・・

その言葉は私の心になぜか残りました。

 

 

 

コナラを毎回とってくるのが大変なので、敷地に生えているエノキや桜を与えてみました。

ウスコ(ウスオかもしれない)は、イヤイヤしました。

食べ慣れたコナラじゃないと嫌なのかな。

うう、コナラ採ってくるの、大変だな。

 

そのうちウスコは肌ツヤが悪くなり、あまり食べなくなりました。

 

み、眠かな・・・大丈夫かな。

 

それから数日後、ウスコは後ろ足で枝につかまりながら、イナバウアーのようになっていました。

ウスコ、やっぱり、森に戻してやればよかった・・・!

私は、野生のものを手元にとどめておく罪深さにおののき、泣きました。

 

夫が帰ってきたので、森に返したいと訴えると、

生きものがかりは理科の観察が好きなので

 『もうちょっと様子見てみようよ』。

 

私のことも観察されているかもしれない。

 

そして翌日。

 

う、ウスコから謎の生物がたくさん出てきたーーーー!

ギャーーーー!

 

彼らに会うのは人生二度め。

小学生の時、モンシロチョウの幼虫をみんなで育てていたら、

終齢になって同じように中から 別の生きものがウニャウニャ出てきたのだった。

 

K子ちゃんの観察眼は鋭かった。

『ハチに・・・』

そう、寄生蜂に寄生されていたのだ〜〜〜

 

モンシロチョウを飼った時に、理科で習ったことを思い出しました。

自然の中で生きる幼虫が、成虫になれる確率は100頭に1頭、あるかないか。

 

ハチが出てきたウスコの体はペッタンコになっていました。

 

もうダメだ、せめて最期は森に戻してやろう。

 

ウスコの体によって守られ大人になったハチたちは、

また別のウスタビガの幼虫を見つけては卵を産みつけてゆくでしょう。

 

その攻撃をかいくぐれた、運良き幼虫たちは大人になってゆくでしょう。

 

みんな、生きろ。

と言って 枝ごと森に置いてきたのでした。